言葉というものを大切に、小説を紹介します。 もしかしたら、あなたの心にそっと入り込む私的詩的素敵な言葉たち、見つけられるかもしれません。
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『宙(そら)の名前』林完次さん
月に祈りをささげ
星に願いをかけた
祖先たちに・・・・・



夜空は、神話と伝説に満ちた煌きの地。天と地と、その間の宙に浮かぶ星月は神様が人類にくれた、かけがえのない贈り物。
ひとたび星が囁けば、あなただけの物語が始まる。
夜空の物語を綴った天体図鑑。宵闇に包まれ、静かに星が瞬き出す日の沈んだあとに訪れる、夜の世界250点余の写真とともに星物語を綴った本のプラネタリウム、である。

これは小説ではないが、昔からもっていて、時々夜に眺めていることがある。
月や星の写真と今まで知らなかった言葉、例えば、つきこもり、月点心、夜の帳など読んで写真を見ていると現実を逸脱して綺麗な心になる、つまり癒される。また、昔の人たちが詠んだ歌もたくさんあるのでいい雰囲気になっていると思う。ずっと長く持っていたい本だ。

この本のお陰で夜外を歩いているとつい空を見上げる癖がついてしまった。普段と違う月や、星がたくさん見えたときはなんだか得した気分になる。

月や星は地球が生まれたときからあるわけで、今から100年前も1000年前も(多分)今とあまり変わらないものを人は見ていることになる。一体何を想って見ていたんだろう?今までに月や星に馳せられた想いは膨大なものだろう。そう思うとなんかすごい。
これから寒くなる季節、ついつい寒さにうつむきがちになって歩いてしまう今日この頃。
もしも夜、外を歩いていたのなら、ふと空を見上げて欲しい。素敵なものを見ることが出来るかもしれません。


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北村薫さんの『盤上の敵』
「始めたことなら、いつかは終わるよ」
「それが・・・」
「怖い?」
「はい」
「でも、それは仕方がないじゃないか。始めと終りがあるなら、その間に何かがあったということになる。そっちの方が大事だろう」

護りたい。たとえどんな犠牲を払ってでも。
やるかやられるか、これは悲しくも壮絶な戦いの物語。



我が家に猟銃を持った殺人犯が立てこもり、妻・友貴子が人質にされた。警察とワイドショーのカメラに包囲され、「公然の密室」と化したマイホーム!末永純一は妻を無事に救出するため、警察を出し抜き犯人と交渉を始める。はたして純一は犯人に王手(チェックメイト)をかけることができるのか? 誰もが驚く北村マジック、である。

文庫版の前書きにこう書いてある。

「今、物語によって慰めを得たり、安らかな心を得たいという方には、このお話は不向きです」。

一体どんな小説なのか読んでみることにした。
確かに、最初のシーンといい、途中の描写といい正直少し辛くなる。理不尽な暴力に胸が痛む。しかし、まだ未読の方はそれで読むのを止めずに最後まで読んでみてほしい。

「誰もが驚く北村マジック」と書かれていたが、実際これは驚いた。いや、驚いたというよりは一瞬何がなんだか分からなくなったという方が正しいのかもしれない(トリックを考える余裕なんてなかった)。
そのどんでん返しまでは殺人犯と末永と警察とマスコミの息の詰まる攻防と、ある女性の回想が書かれている。しかしその段階でこの結末はまったく予想できなかった。すごいの一言に尽きる。
まさにチェスのようにチェックメイトに向けて、ひとつひとつ詰めていくような感じの小説だ。

打つものと打たれるもの、誰もがそのどちらにもなり得る。決して抗えない運命に晒された場合、一体私たちに何が出来るのか?
じっと嵐が通り過ぎるのを待つように身を潜めるのも、勇敢に立ち向かうのも、選択するのはその人自身。

人の痛み、苦しみを見るのはつらい。それらから目をそらさずに、しっかりと受け止めることが出来るのなら・・・。せめて、自分の大切な人たちだけでも護ることができる「強さ」をもつことが出来るのなら・・・。

この小説は、正しい、正しくない、を問題にしているのではないんだろう。
もっと人間の本質の深い部分を問いただされているような気がしてならない。


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萩原浩さんの『コールドゲーム』
「おまえらにとっちゃどうでもいいもんが、別の誰かにとっちゃ大切なものかもしれねえんだ。それは知りませんでした、じゃすまねえこともある。そのことは覚えとけ」

忘れていた。忘れたかった。
過去からの復讐のメッセージ。犯人はあの男なのか?


一言でいえば「いじめ」による復讐を題材とした青春ミステリ。とにもかくにもやるせない。
また、一人ずつ復讐の標的になっていく様子や恐怖はホラー的要素も含んでいる。
まあ、決して明るいとは言い難い小説だと個人的には感じた。というのも、いじめの描写が結構ひどく、少なくとも私の周りではそこまでのことがなかったから感情移入できなかったのが原因だ。
しかし、最後まではきちっと読めたので買って損したとは思わなかった。
今回、最後にどんなどんでん返しがあるのかと期待しながら読んでいたら、私にしては珍しく真相に気づいてしまった。きっとどこかで似たような小説を読んでいたんだろう。

過去のことなんて細かく覚えてはいないし、忘れていて当たり前だと思う。そうしないとなかなか前には進めないだろうし。しかしそれだけに上の言葉が余計に心に突き刺さる。
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岡嶋二人さんの『そして扉が閉ざされた』
「ほんとに大切なことに意味なんかないよ。面白い、くだらねえ、好きだ、うれしい、かなしい、そういう感覚があるだけだ。」


富豪の若き1人娘が不審な事故で死亡して3カ月、彼女の遊び仲間だった男女4人が、遺族の手で地下シェルターに閉じ込められた!なぜ?そもそもあの事故の真相は何だったのか?4人が死にものぐるいで脱出を試みながら推理した意外極まる結末は?極限状況の密室で謎を解明する異色傑作推理長編、である。

男女4人が地下シェルターに閉じ込められ、犯人はきっとその中にいる。 ・・・こんな推理小説、手にとってしまったら読まないわけにはいかないだろう、と変な使命感を勝手に感じ読んでみた。
かなり前のものだが、これぞミステリーといえる作品となっている。
事故死したとおもわれる女性の事件の真相を四人が推理し合い、同時にシェルターからの脱出も色々試みる。この四人の試行錯誤のおかげで物語にどんどん惹きこまれる。
場面は主に地下シェルターであり、その間に過去の場面が挿入されるだけなのだが、真相が二転三転し、本当の真実が明らかになるまで一気に読めることが出来る。変に内容が派手な小説や、結末が「それはありえないだろう」と疑問視してしまう小説より今回のこの小説は好ましく感じた。
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本多孝好さんの『MISSING』
「高い所から夜の町を見下ろすとき、みんな似たようなことを考える。あの小さな灯りの一つ一つに、知らない人のささやかな、それでもかけがえのない暮らしがあるんだって、そんなことを考える。でもそのあとは二通りに分かれる」

「そのささやかな暮らしのために祈る人と、そのささやかな暮らしを呪う人と」

すでに失ってしまったもの、いま失いつつあるもの、これから失っていくもの。
そこに希望はあるのか。

収録作品
・眠りの海
・祈灯
・蝉の証
・瑠璃
・彼の棲む場所

全体的に切なさが溢れる物語になっている。描写などは綺麗な印象を感じさせる。
登場人物の会話も(例えば「瑠璃」の僕とルコ)とても感じがいい。しかし、どの話も「死」というものが関わってくるので、読む人によっては重く感じるのかもしれない。特に「彼の棲む場所」なんかは人間の本質というかとても暗いところを覗かされたような気になった。
人は「綺麗事ばかりいってられない」と言う。確かにその通りだ。でも、少なくとも私は自分に言い訳をし、開き直らないよう努力はしようと思う(これがまた難しいが)。

収録作品のなかで特に気に入ったのは、「祈灯」「瑠璃」だ。
「祈灯」は幽霊ちゃんというネーミングと兄と妹のやりとりから軽い物語を(勝手に)予想していたのに裏切られたからとても印象に残った。
「瑠璃」は、この話が一番共感できたというか、わかり易かった感じがする。ただ、少し死というものが美化されすぎているんじゃないかと思う。
人は時間とともに変わっていくものだし、それは昔の自分を失ったというよりも成長して変化したといったほうが正しいのかもしれない。

人間は単純な生き物ではない。とても複雑にできている。あまりに複雑なため自分自身を恨みたくなるときもあるくらいだ。でもそんな中でひょっこりと、とても素直で単純な感情が顔を覗かせることがある。それを綺麗だと感じてしまうのは私だけだろうか。


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松岡圭祐さんの『千里眼とニュアージュ』
「自分がどんな人間かは、世間がきめるわけではないわ。自分できめることなのよ」


躍進する巨大IT企業が設置した『48番目の都道府県』萩原県。そこには前代末聞の陰謀が隠されていた―。岬美由紀と『蒼い瞳とニュアージュ』のヒロイン一ノ瀬恵梨香が競演!千里眼シリーズ初の文庫書き下ろし、である。

これまでのシリーズ同様、今回も時事を上手く取り込んだリアリティのある物語になっている。
何かと話題になっているニートや、巨大IT企業、もちろん心理学や、二人のヒロインの出会いなど様々な要素を含んでいるが、ごちゃごちゃ感はなく、上手くまとまっており、かなりのボリュームだが最後まで一気に読まされてしまう。
個人的には、このシリーズで一、二位を争うくらい面白かったと思う。シリーズものだが、単体でも楽しめるだろう。

ニートや無職の人だけを集めた荻原県。ここでは、生活費はほとんどタダ、しかも何もしなくても一定のお金は貰える。この考えは実に面白い(まあ、現実には無理だろうけど)。どこからこういう考えを思いつく のだろうか。
ここでひとつ、もし自分がこういう生活をさせられたら、と考えてみる。私はどちらかといえば怠けるのが好きなのだが、何もしなくていいと言われると(最初のうちは本当に何もしないだろうが)焦りと自己嫌悪に悩まされて、逆に何かやりたくなるんだろうなと思う。
今、問題になっているのはニートや年金を払わない人、不登校や引きこもりなど。
この問題を解決するには、こういう人たちに「働かなくてもいいんですよ、学校に行かなくてもずっと家にいてもいいんですよ」と周りの人が積極的に言えばいいんじゃないかと思う。
どうせ中途半端に甘やかすのなら、当人が気持ち悪くなるくらい徹底的に甘やかしたらいい、なんて無責任に思ってみた。
・・・まあ、こういう風に色々考えさせられるのも読書の良いところかと。
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梶尾真治さんの『クロノス・ジョウンターの伝説』
「自分の過去のあやまちを振り返って、あのときこうしておけば・・・と悔やむことが、人にはよくある。だが、悔やんで道が拓けることは、まずない。」

もしも過去に跳べることが出来たなら・・・。
これは時を超える人たちの奇跡の物語。



収録作品
・吹原和彦の軌跡
・布川輝良の軌跡
・<外伝>朋恵の夢想時間
・鈴谷樹里の軌跡

本屋で何か面白そうな本がないか探していた時、ふと 目についたのがこの小説。よく見れば映画、「この胸 いっぱいの愛を」の原作だとか。映画はまだ見ていな いが、「もし人生でひとつだけ、やり直すことができ たなら・・・。」という文句に惹かれ購入した。
この小説のジャンルは、いわゆるSFだけれど、めった にSFを読まない私にも充分すぎるくらい楽しめた。こ れは思わぬ買い物をした。
それぞれの作品は、愛と時間をテーマに、感動できる 物語となっている。また、過去へいけるといっても色 々な制限があり、その不自由さが一層物語を盛り上げ ている。実に面白い着眼点だと思う。

「もしも過去にいけるのなら・・・。」
誰でも一度は考えたことがあるだろう。常に一瞬一瞬の現在を生き ている私たちにとっては、戻ることは出来ない過去の時間。不可能だからこそ、こういう話に心惹かれるのかもしれない。


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瀬名秀明さんの『ハル』
「教えてください、ぼくたちはヒトですか、機械ですか。」

どれだけ時がすぎても、時代が移ろうとも、大丈夫。
ぼく達はもう孤独じゃない。
それはヒトとロボットの新しい可能性を感じさせる物語。

収録作品
・ハル 〜たましいと身体
・夏のロボット 〜来るべき邂逅
・見護るものたち 〜絶望と希望
・亜季への扉 〜こころの光陰
・アトムの子 〜夢みる装置
(間にWASTELAND1〜6)

これは、2002年から10〜20年くらいの近い将来の話。
この小説では、ロボットに心はあるのか?という問題や、ヒトとロボットの関係、ロボットそのものの存在のあり方など色々考えさせられた。
皆さんはロボットと聞いて何を思い浮かべるだろうか?鉄人28号?アトム?ドラえもん?ガンダム?世代によって違うだろうし、人それぞれだと思うけど、これらがもし本当に存在したら?という思いを小さい頃に一度は思い描いたに違いない。

ほんの10年〜20年前からすると、技術に関しては飛躍的に発展してきたといえる。携帯電話やインターネット、色々便利になったものだ(それによって弊害も出てきているが)。
しかし一方では、一昔前に皆が思い浮かべていたこと(ドラえもんみたいなロボットや手軽な宇宙旅行)は未だ実現していない(発表していないだけで本当はとっくに出来ていたりして)。
とはいえ最近ではペットロボットなど急速にロボット技術が進歩しているのは間違いないだろう。今よりもっともっと技術が進歩すると、この小説のように色々な問題がでてくるだろう。ロボットに人権を!みたいなことに本当になるかもしれない。

正直、この小説を読むまではロボットなんて人間の道具として役に立てばそれでいいと思っていた。ニュースとかでヒト型のロボットを見かけるが、何故わざわざヒトに似せるのかがわからなかった。ヒトに似せてヒトが簡単に出来ることと同じようなこと(歩いたり、踊ったり)をさせるくらいなら、ヒトが真似できないようなことをさせたほうがよっぽど役に立つと思っていた(ペットロボット然り)。
でも、この小説の中に出てくるロボット達は、人間と全く同じではないが、ただの機械と割り切ることもできない。
いっそヒトとロボットの新しい関係と割り切ってみるとそう悪くもないのかもしれない。それで何かが得られるのならそれもいいんじゃないか、と思い始めた。
きっと、いつの時代も人はどう強がろうとも、誰かと何かと繋がっていたい生き物だから。


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